船員も同じで退職理由はさまざまです。
この人は辞めないだろうと思った人が、あっさり退職…なんてことは珍しくありません。
大きなコストを掛けて採用した社員が、あっさり辞めてしまうのも会社にとって痛手ですよね…。
仕事や人間関係で早期離職する者は、全体の 64%を占め、船内における仕事、プライベートの悩みにより早期離職を選ぶ傾向が大きい。
出典元:⽇本航海学会論⽂集 第130巻 第129回講演会にて講演.若年船員を早期離職に導く要因.Factors that lead to early turnover of young Seafarers.https://www.jstage.jst.go.jp/article/jin/130/0/130_114/_pdf.(参照 2021-03-18)
可能ならば離職率を下げ、愛社精神を持って取り組んでくれる社員が欲しいところ。
今回は船員さんや会社さんから伺った、退職理由と離職率を下げるための対策について書きました。
退職理由の大半「人間関係」
24時間も同じ船で同じ人と生活をすると、窮屈さやプレッシャーにさいなまれることは、往々にしてあります。
苦手な上司・部下が一緒なら、なおさらです。
昔からのやり方にこだわるベテラン船員や昭和の根性論から抜け出せない上司、メリハリのない労働時間などは、身体以外に精神的にもつらいです。
大好きなメンバーなら乗船は早く感じますが、苦手なメンバーなら時間が経ってくれないような感覚に陥ります。
私も船員として、同じ経験を味わいました。
とくに甲板手の3年間は、昇進に向けてライバルも多く、嫉妬や恨みによる陰口もあり、散々な時代を過ごしました。
航海士になると重責を担うことになるので、人間関係よりも毎日必死で業務遂行に力を入れていた記憶があります。
もし悩むとしたら、甲板部・機関部との調整や、人の動かし方に苦戦するときです。
こういった「立場によって変わる人間関係の悩み」について、経験された方もいらっしゃるのではないでしょうか。
人間関係の悩みは、就く役職にもよれば、職場によって異なります。
人間関係は、学校卒業後もっとも悩まされるものであり、退職の大きな要因となっています。
結婚や出産が決め手「家族事情」
船員は結婚や出産に差し掛かると、乗船期間や給与を見直します。
自分が家にいない乗船期間は、家族に負担をかけないか?給与は十分か?自分の人生設計を考え出します。
私の先輩も当時、出産について考え、さらに上の先輩からアドバイスを仰いでいました。
乗船・休暇期間を加味し、別の海運会社に転職した友人もいるほどです。
他に実家の家業である、漁師の仕事を継ぐ方もいました。
家族・家系事情は思った以上に根深いものです。
人の人生に影響を及ぼす要素でもあるため、採用の段階から考慮し、確認しておきたいところです。
参考記事:船員の結婚生活って幸せ?現役船員に聞いた、結婚と出産の現実
体制や方針が大きく変化「会社事情」
海運会社とは、造船もあれば売船もあります。
会社が抱える隻数に増減があれば、抱える船員に影響を与えるのは明白です。
隻数によって人員の調整が入ることもあれば、売船して自分に合う船がなくなったので、転職する人も出てくるのです。
私が新卒で入社した当時の会社は、RORO船2隻、油タンカー1隻、LPGタンカー1隻を抱えていました。
RORO船が1隻売船すると、「タンカーには乗れない」という理由で、続々と退職したことがありました。
在籍した船員も「タンカーに乗るなら転職する」と言い張り、社内で物議を醸したものです。
会社によって形態も様々であり、船種も様々です。
会社の運営に、船員の人生は大きな影響を及ぼします。
離職率低下への施策を、定期的に見直すことが肝要
退職を「仕方がない」で過ごすことはできません。
再発防止のために、やはり重く受け止める必要があります。
船員とは、経験と知識が物を言う世界といっても過言ではありません。
昨日初めて乗船して来たベテラン派遣船員よりも、数年働いた自社の船員の方がミスがないばかりか、一緒に乗船する船員の身体的・心理的負担も減ります。
代わりがきかないのが、船員雇用の難しいところなのです。
だからこそ退職理由に目を向け、改善していく姿勢が大切になります。
例えば退職の理由として、よく耳にするのが「入社前に得た情報」と「入社後に得た情報」にギャップがあり、「こんなの聞いていない」といった不満が挙げられます。
まずは、このギャップを取り除くことが肝要です。
他にも、将来のビジョンを共有し、新人教育の時から、数年後の収入や役職などのイメージを与えておく方法もあります。
船員はデッキなら一等航海士、エンジニアは機関長の采配に委ねられるものです。
進言しづらい性格や関係性であるならば、要注意です。
教育機関から採用する場合は、卒業生の離職状況について予め調査しておくと、その後の勤続年数の指標となります。
離職率低下のため、離職原因と対策を定期的に調査することは、もはや必須と言わざるを得ないのです。