sail tech 川名
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団塊の世代がまとまって引退し、ベテラン層の不在が危惧されています。

「海運業界は人手不足だ」私が新人だった18歳から言われています。

10年以上経った今も言われていますが、以前と比べて緊急性が増した印象です。

緊急性が増した原因、それは団塊世代の引退が考えられます。

「海運業に就職する人数」と「退職する人数」が従来通りの割合だったとしても、重役クラスに就いている団塊世代が体力気力の問題でごそっと引退すると、乗組員が減るのは明白です。

最近では船員が他社や他業界に流出しない観点と、求人の観点から、「船内にWi-Fiを設置して住環境を充実する」や「SNSで発信する」という取り組みが当たり前になり、素晴らしいと思いつつも、やや場当たり的な処置に感じ取れます。

海運会社の採用担当の方と話をしても、人材流出の防止や求人の決定打になっていないことが数字に出ています。(一時的な効果は期待できる)

ほぼ永遠の課題と行っても過言ではない船員の人手不足について、考察していきます。

物流が止まる?船員減少で起きる影響

まず人手不足を解体してみると、以下の記事から20年間で2万人近くの内航船員が減少したことが見て取れます。

内航船とは外国と行き来して荷物を輸送する船ではなく、国内の港を行き来するものです。

たまにテレビでみる、バカでかいコンテナ船や300mを越えるタンカーは基本的に外航船。

70〜150mの中小の船は、内航船と覚えていただいて大丈夫です。

東京でいえば、竹芝桟橋や品川埠頭に停泊している船はほぼ内航船です。

国土交通省によると、内航船の船員数は1995年の約4万8千人から2017年には約2万8千人に減少した。50歳以上が47%を占めており、高齢化が進む。(中略)2018年の船員労働統計などによると、内航船員の月額賃金は約47万8000円(平均45.7歳)。一般労働者の30万6000円(平均42.9歳)を大きく上回る。一方で労働時間の長さや船内の通信環境の悪さ、長期間帰宅できないことなどから、若者がなかなか就業しない状況が続いている。

出典元:日本経済新聞「国内船、深刻な人手不足 海の流通停滞の恐れ」https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49410230U9A900C1CC1000/

内航船が少なくなると物流が滞り、みなさんの手に届かないものが増えます。

荷物は生活用品にとどまらず、食料や石油(ガソリンや灯油)、車などの資産も含まれます。

船の輸送効率(大量輸送・省エネ)が空路や陸路より大きく優れているため、海運業が滞ると障害が発生するのは明白です。

どんなにスマホで便利な未来が来ても、物が届くまで時間がかかる上に、輸送費がかかることも考えられます。

東京から離島に輸送している、とある船会社も、黒字にかかわらず船員不足によって事業を撤退しようかという話を聞いたことも。

離島に輸送する船が減れば、物資が減り価格は高騰、その島の住民が苦しい状況に陥ります。

では外国から人を雇えば?という声もありますが、日本を含む各国には「カボタージュ規制」というものがあり、「国内のインフラは原則、国内の人が取り組もうね」という規制があります。

例えば日本国内で外国人が大量の油を運んでいて、わざと座礁し、油を流出して日本の生態系を壊すなんてことがあると、日本は大打撃を負ってしまうためインフラでは重要な規制です。

外航船の場合はカボタージュ規制に該当しないため、日本船籍でも外国人を乗せているため、人手不足は内航船ほど問題視されていません。

内航船の人手不足は、国内の人間でどうにか解決しなければならないのです。

船員について知る機会が少ない環境である

船員をしていると「そんな業界があったんだ」や「どのような仕事なの?」と聞かれることが多いと感じます。

つまり全くイメージにない状態です。

学校の授業を思い出しても、「現代社会」の教科書の後ろに、海運の写真や輸出入の図があるだけで、なにも記憶に残りません。

記憶にないものを将来の仕事にしようとは思わないですよね。

学校でも重要性を教えてくれてない、誰も教えてくれない業種だからこそ理解し難い。

仮に大人になってから「海運業は良いな」と魅力を感じても、そこから学校に通わなければなりません。

海運業への「認知」と「敷居の高さ」が参入障壁になっていると見て取れます。

船員増加のためにできること

周囲の友人に船員になった理由を聞くと、とてもシンプルだったりします。

  • 親戚が船員だった
  • 幼少期に港に行き、大型船の出入港を見た
  • 海技教育機構の練習船(日本丸や海王丸)を見学した
  • 幼少期に海に行き感動、海に携わる仕事をしようと思っていた

船員になった動機を聞くと実にシンプルです。

幼少期〜青少年の原体験が左右されるといっても良いでしょう。

船ではイメージが湧かないので、まずは海に触れてみることが大切です。

私は不定期で友人やその家族を連れて、釣りやクルージングを楽しんでいます。

沖に出れば釣船や貨物船、ジェットスキーなど、あらゆる船に出会います。

様々な船を見聞きすることで疑問が生まれ、関心を持つようになるのです。

幼少期に海に触れることが、必ずしも船員の人手不足を解消するとは言い切れません。

しかし、海や船にも触れて大人になるのと、そうではないのでは、雲泥の差です。

政府主導の教育やイベントに頼るのではなく、企業努力や個人で企画を立ち上げることで、海への理解が更に進みます。

船員人手不足は慢性的で、枝葉の対策で解消できる問題ではありません。

企業間で人材を奪い合うことも、しばらく続くかも知れません。

すぐに解消する問題ではないため、私自身も仮説検証を繰り返しながら啓蒙普及を続けていきます。