反面、夢にまで見た船員になっても、結婚の事情により退職し、仕方なく陸上勤務をしている船員仲間もいます。
誰にとっても大きな選択となることは間違いないでしょう。
船員の仕事に慣れ始め、収入も安定してくると、結婚に憧れる方も少なくないと思います。
上司の幸せそうな結婚生活を目の当たりにすると、ついつい憧れてしまうものです。
当時、私を含めた周りの20代船員も「遊びたい」よりかは「結婚したい」の方が多かった印象です。
しかし「結婚なんかしない方が良いよ」と言う先輩船員がいるのも事実。
さて今回は結婚前に知っておきたい現実を、周りの船員の情報を元に書いて行きます。
家庭によって個人差がありますので、あくまでご参考にしていただければと思います。
新婚時代には出来る限り、仕事内容を共有することが大切
乗船とは儚いもので、これまで予定していた夫婦の時間を、仕事にすべて返上しなくてはなりません。
乗下船サイクルについて、妻には理解をなかなか得られなかった
このような声もありました。
船荷や天候の影響により下船日が延びてしまい、奥さんをなだめることに苦労された方も多いでしょう。
一方で突然の乗船によって、家族で楽しみにしていた計画の変更を余儀なくされる場合もあります。
基本的に船員の仕事内容や危険性、労働時間は理解し難いものです。
だからこそ、日頃の電話やSNSによる連絡も重要になってきます。
地震や津波の影響など、海上である以上、不安は常につきまとうものです。
仮バースに呼んで、実際の職場環境を見せたりすることも、理解への一歩になるのではないでしょうか。
出産後は、子育ての負担の偏りから、ストレスの限界に達することも
夫が乗船している間は、基本すべて、奥さんが育児をすることになります。
すなわち妊娠中・育児中は、夫がほぼ寄り添えないということです。
奥さんのホルモンバランスの崩れによって、余裕が一切無くなり、自由度の無さを訴えられた船員もいらっしゃいます。
今まで得られていた理解から、揚げ足を取るような、真逆の発想へと変わることもあります。
例えば、「今日は仮バースだよ」と電話した際、とつぜん豹変するように
遊べていいね。こっちは大変なのに。
と、仮バースさえ妬みの的に。
時にはアンカー避難でさえも標的になり、「朝まで寝れるから良いね」と言われる始末。
奥さんは子供の夜泣きの対応もあるので、理不尽さを感じるようです。
一方の休暇中では、1日でも遊ぼうものなら夫婦喧嘩です。
長期乗船中、子育て不参加と同じ扱いを受けるため、夫は半ば強制的に育児に取り組むことになります。
陸上勤務でさえ大変な育児を、基本的に奥さん1人に任せることになるのが、出産後の現実なのです。
結婚前に「船員」の仕事を理解して貰うことは、もはや必須
幸せな家庭を築いたはずが、仕事によって夫婦ともに疲弊してしまうのが、船員の結婚生活です。
他にも奥さんに理解して欲しい、悲痛の声がありました。
- 家族の生活の為に、犠牲を払っている面もある(給与面や生活水準等)
- 妻と子供をとても心配して乗船している(事故や怪我、雪かきや買い物、病気の面など)
- 決して船の仕事も、楽なことばかりではない(本当は育児もしたい・船員と育児の大変さなど比較できない)
- 家族との電話も大切に思っているが、船員同士の人間関係を優先せざるを得ない状況は理解して欲しい(自由時間は上司の飲み相手になる場合も…)
- 乗船中に家庭問題への対応を求めすぎないで欲しい。乗船中は家の対応が何一つできないもどかしさが下船まで延々と続くので、過度な精神的負担があるところはぜひ理解を得たい。(船員を辞める覚悟まで追い込まれた時期も多かった..)
本音が出ましたが、やはりこれらが現実です。
船員の結婚になると「惚れた腫れた」で、まかり通る話ではありません。
結婚前に理解してもらう努力と環境作りがとても大切なのです。
例えば、以下2点など挙げられます。
- You Tubeやテレビの船員特番を活用して、仕事内容や社会的役割を理解してもらう
- 陸上職と海上職の給与差を知ってもらい、連絡もできないほどの忙しさを伝える
ただ情報を誤ってしまうと、ネット上に一昔前の船員像そのものが書かれている記事を読み、心配されるケースもあります。
給料の高さや女遊び、危険性の高い職種が強調され、ネガティブな心象を植え付けてしまうことさえあるので要注意です。
「亭主元気で留守が良い」は本当か?
ここまで書いてきましたが、振り返ると「結婚などしないほうが良いのでは?」という声も上がります。
しかし、結婚と出産の辛さが永遠に続くことはありません。
とある船員の奥さんに話を聞いたところ、「辛いのは子供が高校に入るまで」と言われました。
子供が自立すると、一気に楽になるとのことです。
また、自立するまでは本当に辛いので、夫が乗船中に家族や近隣の人に支えてもらえば、だいぶ楽になると言われました。
子供が自立した現在は、むしろ「夫は元気にずっと乗船してて欲しい」と満面な笑みで話を続けました。
夫の乗下船の際には、最寄りの駅まで送迎し、夫不在中は旅行に行ったりゴルフに行ったり、1人を満喫しています。
だからと言って仲違いする訳ではなく、夫が休暇中は一緒に出かけたりして、結婚生活を楽しんでいるのです。
すべてと言いきれませんが、実際、50.60代のベテラン船員さんの夫婦仲は良い印象を受けます。
船員の結婚は幸か不幸かではなく、幸せな一面もあれば大変な一面もあるという表現がふさわしいのかも知れません。