この度2023年3月5日に放映の「日曜ビッグバラエティ巨大客船に乗せてもらいました!」のアシスタントプロデューサーとして携わらせていただきました。

当サイトをみていただいた番組制作会社さまから、2021年8月に連絡があり、やり取りを重ねている内に本企画のオファーをいただいたのがきっかけです。

「海の魅力を一人でも多くの方に伝えたい!」という気持ちで船員から独立したので、本企画への参加にはよろこびで胸がいっぱいです!

海を熟知している元船員として、専門知識のアドバイスや協力会社へ素材提供の交渉、ロケハン、収録立ち会いに参加させていただきました。

制作側と視聴者側の「船に対する見方」について触れることができたため、共有したいと思います。

関係者も船と海を知らない!だからこそ、事前準備が重要

番組制作への出だしは、制作側と船会社の打ち合わせから始まりました。

今回の航海の概要や特色、注意点などを聞いていきます。

積載している機器や航路、船員について私からも詳しく聞きました。

船に出たら最後、連絡手段が途絶えてしまうため、怠るわけにはいきません。

「ドキュメンタリーは撮れ高次第」と伺いましたが、そもそも撮影するポイントを理解していないと、撮影する場所に居合わせることなく撮れ高すらない状態になります。

専門的であればあるほど、マニアックであればあるほど、「知る人は知っている」状態をない状態を無くさなくてはなりません。

例えば船のエンジンは2基であることや、汚水処理装置で乗客乗員の下水を処理しているなど、現場の人間でないとまず知りません(笑)

打ち合わせに参加した制作、船会社側も船員の経歴があるのは私だけだったようです。

曖昧に進めてしまうと、今後得られる情報も限られてしまいます。

船への確認事項も多く依頼しました。

私は慣れない立場でありながら「自分にできることはなんだろう」や「この情報があれば、おもしろい番組になるのでは」と冷静に考えながらも、初体験のよろこびと興奮を抑えることができませんでした。

ほどなくロケハンが始まり、出港準備に取り掛かります。

出港日が近づくに連れて、乗船するディレクターとカメラマンから船への確認事項も増えました。

逆に船会社側から免税申請PCR検査などの連絡が増したことで、番組制作の現実味を一気に帯びてきました。

番組を一人でも多くの方に届けるために、数多くの人が全力を尽くす

出港に立ち会いディレクターとカメラマンを見送ると、やることはなく遠目に見守ることしかできません。

あれほどバタバタしていた業務がウソのように静まり返りました。

「自分の業務ってなんだっけ?」と思うほどやることがなく、AIS(船舶の動静を自動で識別する装置)アプリで船の位置を確認することが唯一できることです。

わたしの周囲の番組制作を知っている方から「船が帰港したらすごく忙しくなると思う」と言われましたが、まさかと正直疑っていました。

年をまたぎ、船が帰港した1月31日です。

編集作業は翌日から始まりました。

huge passenger ship
後進で着岸するにっぽん丸

私は都内某スタジオによばれ、プロデューサーや制作スタッフに囲まれながら、ディレクターが繋いだ一通りの動画をみました。

1ヶ月半のデータのため、メモリも膨大です。

なんとか繋いできた動画を、総指揮が「ココとココをつなげてこう見せよう!」「ここからはカット」など、視聴者が迷わないようにかつインパクトがあるような魅せ方をディレクターにわかりやすく伝えます。

その伝え方はまるで番組の「笑点」を見ているかのようで、表現豊かでわかりやすく本当におもしろい。

むしろ、この編集シーンが番組になるのではと思いました(笑)

視聴者に船と海の魅力(総じて番組)を知っていただけるように、最大限の工夫をしているのだと私は感動しました。

帰港から約1ヶ月後の番組公開に間に合わせるために、スタジオに通う日々が続きます。

通うたびに初めてお会いする方も多く、局のプロデューサーや脚本、AD、デザイナーなどご挨拶します。

みなそれぞれミッションを持ち、1つの番組をつくるために全力を尽くしているのが伝わってきました。

船への理解を持って初めて番組としてわかりやすく伝えられるため、私はスタッフが抱える「船にかかわる疑問」に一つ一つ説明させていただきました。

本当はみんな持っている「海への感心」。問題は触れる機会がないことである

スタッフと話す機会が増えると、雑談もします。

巨大船シリーズにかかわってきた経験者も多いため、海と船への理解度は高い。

「船員って魅力的な職場だよね!」と笑顔で答えてくれます。

私は船員時代に先輩や同期、後輩へ「船員って素晴らしい職業ですよね!」と感想を述べたときに、「そんなことはない」や「アホだ」なんて笑われ、一人で傷ついた経験があります。

制作の現場は新鮮で居心地が良い空間でした。

別の場所で船にかかわる仕事を行うと、船員に感心を持っていただく機会は実に多い。

船員のことを最も卑下しているのが、船員自身ではないのか?という疑問すら湧いて出てきます。

若年層はそうとも言い切れませんが、仕事に慣れた船員こそ、そのきらいがある。(もちろん素晴らしい人格の方もいる)

一方で収録時の制作スタッフ番組出演者を見ると、海に感心にあることが見て取れます。

最終的にカットされた部分も多いですが、本当におもしろいシーンがたくさんありました。

休憩中や収録後に、船に対して楽しそうに会話する制作スタッフと出演者を見ると、「この方はとても船が好きなんだな〜」と、こちらまで笑顔になってしまいます。

制作と収録を通して、多くの方が本当は海に興味があるのだと感心しました。

怒涛の編集期間が過ぎ、3月5日に放映開始。

知人友人からもおもしろかった!こんな仕事があったんだ!と多くの意見をいただきました。

SNSのコメントも多く、海運業界に携わる人はもちろんのこと、業界人以外からも番組を満足された声を多くいただいたのが分かります。

私は「海にかかわる人を増やす日本にする」目標を掲げて活動してきたため、こんなに多くの方に魅力を届けられたのかと、胸が熱くなりました。

テレビへの感心が薄れ、ネット検索がレコメンドになった現在、「情報の偏り」が進んでいます。

知っている情報はめちゃくちゃ詳しいけど、知らない情報は一ミリも頭に入っていないという世の中が加速しています。

そのような中で最初から認知度が低かった「海の魅力」を多くの方に届けるのは至難の業です。

番組制作を通してわかったことは、「船は知っていたけれど船員ってなんだろう」「こんな仕事があったんだ」と述べる日本人がとても多いこと。

今あなたが着ている家具海外製が多いのに、誰がどうやって運んできたんだろう?と疑問にならない(知らない)ことが往々にしてあります。

国内の生産物だけでは運営できないことを知っているはずなのに。

学校の教育だけでは、限界があることがよく分かります。

海と船への造詣を深めるために、法人は企業努力、社会的には「メディアと体験で海を理解する機会」を増やす

この2点が重大なキーワードではないでしょうか。