2022年4月に改正された船員法。

「船の働き方改革」として施行から半年以上たった今、船内環境が改善した船も出てきました。

周囲の船員に聞いたことを元に、実際にどのような変化があったのか解説していきます。

荷主を巻き込む施策だからこそ効果を期待できるが、運航会社には負担も

船員法の改正は大きく2つに区分されます。

  • 船会社側:船員の労働管理の適正化
  • 荷主側:内航海運の取引環境の改善・生産性向上
出典元:国土交通省海事局船員政策課「船員法などの改正(PDF)」

船員の労働管理の適正化

  • 労務管理責任者の選任
  • 船員の労働時間の管理
  • 労働時間等に応じた適切な措置

船員ができることは労働時間の適切な記入です。

取りまとめている船長や一等航海士、機関長の存在も重要です。

内航海運の取引環境の改善・生産性向上

  • 船員の労働時間に配慮した運航計画の作成
  • 荷主への勧告・公表制度
  • 船舶管理業の登録制度

運航会社(オペレーター)船員の労働時間に配慮した運航計画を実施しなければなりません。

荷主側も協力の義務があり、今回の働き方改革に反した場合は勧告公表の対象になります。

船主と船員にとっては助かる改革です。

反面、運航会社(オペレーター)にとっては負担が大きくなりました。

まず労働管理責任者の任命が必要です。

友人の会社は取締役が労働管理責任者を兼任しているようです。

また、「船員1人当たりの就労時間が決まっており、業務が多く増員しようにも荷主からの傭船料の増額が見込めないため、ある中で賄わなければならず運航会社の経営は厳しくなっている」と運航会社で陸上勤務をしている私の先輩が嘆いていました。

船員の働き方改革を行っても、条約や国際的な規則に準じる業務まで取り除くことはできません。

運賃の向上もすぐには難しいでしょう。

船員がより働きやすくなったのは確かですが、運航会社の経営がますます厳しくなったといえます。

出典元:国土交通省 船員の労務管理が変わります~船員の新たな労務管理体制~

航海数の減少や団塊世代の退職によって、若手船員の負担が軽減

この数年でベテラン船員定年によって退職し、20〜30代の若い船員が増えました。

夕食時のいわゆる飲みニケーションも減り、各自の自由時間が増えた話も耳にします。

ベテラン船員との強制参加の飲み会もすっかりなくなり、仕事が終わったら自室にこもってゲームをしている若手船員も多い。

5〜6年前よりだいぶ変わったと友人船長も語ります。

き合いが減った反面コミュニケーションが減り、意思疎通が難しくなる船員も。

過度なコミュニケーションは時間も体力もすり減らしますが、過小のコミュニケーションは信頼関係の低下技術継承の機会を失います。

トラブルやケンカは飲みの場で発生することも多くありましたが、全く関係がなくなるのは船員同士のひととなりがわからなくなるので、「適度」な人間関係が大切だといえます。

また労働時間の適正化荷主の過労防止措置によって、月の航海数が減った船も。

「強風時の着桟など、無理やりなスケジュールが減ったことで心身の負担も軽減した」との声も上がりました。

強風と降雪または降雨の中で錨を上げて着桟に臨み、バース前で無理だと判断して沖に出てアンカー、それを一日数回も繰り返す、なんてことを私も何度も経験したことがありますが心身ともにこたえます。

現在は改善され、無理な着桟が強要されなくなったことで、身体・精神的に楽になったと友人は答えます。

負担が軽減されても早期退職は発生する

航海数が減り、船内ではゆとりのある環境が目に見えるようになりました。

一見は船員にとっても船主にとっても万々歳と言いたいところですが、早期退職は変わらず一定数います。

新卒を数人採用しても全員退職することなど、まだまだあります。

やはり慌ただしい環境で数ヶ月間も帰宅できない辛さは計り知れません。

自身の精神や体力もありますが、パートナーや家庭との関係によっても難しい方もいらっしゃるのではないでしょうか。

船種の向き不向き、好き嫌いは必ずつきものです。

早期退職の一番の理由は「入社前とのギャップ」ですから、広告・ウエブ・SNS・面接でミスリードせずに船員を採用することが重要といえます。

(参考:入社前後のギャップはなぜ生まれる?面接前に必要な心構えとは)

また今回はあくまでも国内の働き方改革に着目していますが、海運業を取り巻く根本的な改革ではありません。

業務そのものの改善が必要です。

船内には表に出てこない不要な業務がたくさん存在します。

たとえば外航船の航海士がもはや事務員になっているほど、船内の書類業務は膨れ上がっているのです。

条約や国際ルールに準じる業務は、今度も増えていくことが予想されます。

外航船で行っている業務の一部はいずれ、内航船で行うことになるのが通例です。

海外からの圧力がある中での改善は非常に厳しいですが、根本的な改革を目指すのであれば、増え続ける業務に歯止めをかけ、不要な業務からの脱却が必須といえます。