私たちの生活に欠かせないガソリン軽油灯油

車を持っていない方でも日ごろ購入する食材生活消耗品には、運送費用であるガソリン代も含まれています。

日本は自国で消費する分の1%未満もつくられないため、産油国に頼っているのが現状です。

積載する石油の種類によって、船の設備は変わる

産油国から原油を購入し、船で大量輸入の後、国内で精製されます。(ガソリンや軽油、灯油にかえる)

精油所にタンカーが入港し、船の大きなタンクに積んで日本各地の港へ届けているのです。

国内の輸送量は450〜500億トンとなり、日本の石油は80%以上がタンカーによって運び込まれています。

出典元:我が国の国内物流における内航海運 令和元年8月 国土交通省海事局

原油からはLPガス、ガソリン、ナフサ、灯油、ジェット燃料、軽油、重油、アスファルト、潤滑油などありとあらゆる油が精製されます。

オイルタンカーは主に2種類に分かれる

  • 黒油タンカー:重油、原油
  • 白油タンカー:ガソリン、ナフサ、軽油、灯油、ジェット燃料

黒油と白油の違いは粘土や発火点、揮発性です。

荷役の仕方から取り扱いまで異なるため、黒油を積むタンカーと白油を積むタンカーでは港湾のルールが異なります。

黒油タンカー

私たちの生活に必須の電気は、発電所でつくられています。

火力発電や原子力発電、水力発電、太陽光発電など様々です。

この内の火力発電所では石油や天然ガスのほか、原油が使われています。

2011年の東日本大震災以降、原子力発電所の停止の影響で、石炭や石油、天然ガスの供給量が増しました。

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出典元:経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2022」一次エネルギー国内供給の推移

国内では海外から輸入した原油を火力発電所へ、原油を常圧蒸留した重油を船の燃料(バンカー)として使われています。

原油は危険物とみなされ、重油はみなされません。

原油と重油の違いは、流動点引火点発火点です。

重油は約40℃以下になると固まってしまいます。

原油と比べて、重油は引火点も発火点も高い。

重油は爆発する危険性がないものの、固まってしまった場合にタンクや配管内に残り、配管づまりが起こってしまう危険性も秘めています。

反面、原油は危険物扱いになるため、後述の精製油と同様に取り扱い方を誤ると大惨事になりかねません。

発電所の稼働の裏側には、安全に徹する船員の姿があるのです。

白油タンカー

黒油が舶用や発電所などの間接的に使われている燃料に対して、白油は私たちの生活に直接かかわりのあるものです。

白油の使用例

  • ジェット燃料:飛行機
  • ガソリン:自動車
  • 軽油:小型船舶や自動車
  • 灯油:石油ストーブ
  • ナフサ:プラスチックやナイロン袋

これらすべて原油から精製されて、全国各地に輸送されます。

どの油も発火性があるもので、熱源と酸素があれば燃焼(爆発)します。

静電気や衝撃が発生しないように密閉し、安全に徹して荷役・輸送を行う必要があるのです。

私も新人のときは徹底的な教育を受けました。

入港前準備や荷役後の作業も大変で、船員を退職した今も夢に出てくることがあります。。

過酷さは海運業界トップクラス…しかしタンカーならではの魅力もある

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タンカーといえば3K(きつい・汚い・危険)がよく合う乗り物です。

荷役中は全員参加で取り掛かります。

油という危険物を安全に積み揚げするために、指差呼称を徹底しダブルチェックを怠りません。

一瞬の油断が事故を引き起こすため、みな徹底しています。

船舶事故調査報告書https://www.mlit.go.jp/jtsb/ship/rep-acci/2015/MA2015-13-1_2014tk0011.pdf

荷役中は長いときで8〜12時間、短くとも3〜4時間は集中して従事します。

航海中も休みはなく、タンクが空ならばタンク掃除、積んでいても保守作業が待っています。

油は危険物であり海洋汚染につながるものなので、管理体制は厳重です。

また港間の距離が短ければ、航海時間も短く、休みも減ります。

「時間があったら寝ておけ」と呼ばれるほど、タンカーは過酷な環境なのです。

逆にタンカーで一人前になれば、どこの職場でも通用するといわれたものです。

私は新人時代にタンカーでみっちり鍛えてもらったので、心身ともにつらいときがあっても乗り越えられたのだと思います。

過酷な環境は「人」を磨く

タンカーは液体荷物を運ぶため、波浪予報が4メートルあるとしても航行することはよくあります。

荒れる海を走ってそのまま港に到着し、夜間まで荷役となるケースも日常茶飯事です。

心身ともに本当に大変な職場です。

睡眠不足や過労で注意散漫となり、怪我や事故を引き起こすこともある環境です。

だからこそ辛い中で励まし合ったり、本音をぶつけたり、私は人間の底が見える環境だと思いました。

普段は覆いかぶさっている人間の建前ではなく、限りなく本音の部分です。

私は様々な船に乗ってきましたが、タンカーが最も人と近くなれる気がしました。

船を退職した今でも、タンカーに乗っていた人とは交流が続いています。

大規模な精油所がある四日市

激務から解放されたからこそ、休暇中を大切に過ごす

タンカーは3〜5ヶ月乗船し、1〜2ヶ月に下船となります。

休む間もない、仮バースもほとんどないタンカーから、休暇への解放感は言葉に表せません。

家族との時間や旅行、飲み歩き、高額の買い物など、夢は膨らむばかりです(笑)

私はほどよく遊びながら、貯金することができました。

参考:船員の休暇はなにをする?後悔しない休暇の過ごし方を考察してみた

タンカーの給料は危険物タンク掃除などの手当が含まれているため、他の船の給料よりも高い傾向にあります。

私は24歳の二等航海士で年収600万近くありました。

危険物に接するのにそれでは安くないか?という意見もありましたが、私は働きがいと汗をかいて思いっきり打ち込めるタンカーの環境に満足していました。

東日本大震災が起こった際に、西日本にある石油を東北や関東にどんどん運んだことも。

生活に欠かせないインフラだからこそ、天災や情勢に左右されます。

困難なことも沢山ありますが、今後の成長を願う人からすると、うってつけの船だと思います。